箱入り娘の下宿先を一緒に探してやって欲しいと依頼された霊能者。本人と会ってみると「もう住む部屋は決めている」との答え。しかし彼女には、それでも部屋を確かめてもらわなくてはならない事情があった……。
大阪で不動産賃貸業を営む会社社長から連絡を受けたのは、今年の三月初旬でした。娘さんが大学入学を機に上京することになったので、ついては部屋探しを手伝ってもらうことはできないかと相談され、仕事としてお受けすることにしました。
当日は大学最寄りの駅でお嬢さんと待ち合わせをしたのですが、「じつはもう入居する物件の目星は付いているんです。高校時代の先輩が住んでいるアパートの近所にあるマンションで、去年その先輩の所へ遊びに行った時に、たまたま通りがかりに見て一目で気に入ってしまって」会うなり、当人の口からそんな言葉が飛び出しました。「その先輩って男性ですか?もしかして恋人とか?」私が率直に訊ねると、彼女は顔を赤らめて頷き、「すみません。父にはこのことはまだ内密にしていてください。いずれ自分から話します」と。
正直、どうしたものかと頭を抱えました。同時に素朴な疑問も湧いたので、住む部屋がもう決まっているのなら、どうしてわざわざ私などに依頼したのかと問うたところ、赤い顔からみるみる血の気が引いていきました。「私の上京が決まった時に父からを勧められたというのもあるのですが、何よりもそのマンションの中で今、唯一空いている部屋がどうやら瑕疵物件みたいなんです」思わぬ答えを聞いて愕然としました。
当の物件は駅から徒歩十分ほどの至近距離に建つ瀟洒な建物で、いわゆるデザイナーズマンションと呼ばれるものでした。彼女が住もうと決めている空き室は四階の角部屋で広さは1LDK。いかに社長令嬢とはいえ、学生の下宿には贅沢すぎる間取りです。もしや、恋人の男性とその部屋で同棲するつもりなのかと思い、それとなく訊ねると再び図星でした。「このことはお父様には決して申し上げません。ただ、私が関わったということになるとこちらにも責任が生じますので、今日はお一人で部屋を探したということにしていただけませんか」我ながら少し冷たいのではと感じつつもそう言いかけたところ、立っていたリビングの中心に異変が起きました。まるで舞台の迫り上がりから登場するように、部屋の床部分から女の霊が立ち現れたのです。今風の服装をしたショートヘアの若い女。その顔は血だらけでした。
それから約三十分後、私とお嬢さんは駅前へ戻り、喫茶店で話し合いました。結論としては居住に適さない部屋。恋人と同棲するつもりなら尚更だと申し上げました。「あの部屋、過去に異性関係のもつれが原因で若い女性が自殺しています。その女性は肉体を失った今もあそこに住み続け、幸福なカップルが越してくるのを待っているんです。もっとはっきり申しますと、貴女はその霊に呼ばれてしまったんです。向こうは貴女に憑依する気でいますよ」。
現在、当のお嬢さんは違うマンションに住み、無事に大学へ通っています。ただ恋人の男性とは梅雨明け前の頃に破局したそうです。それがあの女の霊の仕業かどうかは不明です。
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