外装補修中のマンションで連日起こる覗きの被害。どんなに監視を強めても、必ずその男が現場に入り込む。これは人間の仕業ではないと感じた理事長は、工事を発注した業者を通じて霊能者に調査を依頼した。
ここ数年、バブル期以前に建設された都内のマンションが一斉に老朽化して、その補修工事が相次いでおり、工事の人手が足らなくなっていると聞きます。そんな中、私の許にそれに関連した依頼が舞い込みました。直接の依頼者は、建物の修繕・補修を行う業者だったのですが、電話であらましを訊いたところ、「外装補修用に張り巡らした鉄骨の足場に、幽霊とおぼしき存在が出没する。ただし自分たち工事関係者はそれを目撃しておらず、マンション理事会の要請でご依頼しました」とのことでした。
そこで約束した当日、問題のマンション一階のロビーへ赴くと、そこの理事長、工事担当者、管理会社社員の三人に出迎えられたのです。最初に口を開いたのは理事長でした。「外から見てお分かりだと思いますが今、この建物は外壁とベランダの補修中で、一階から最上階までぐるりと鉄骨が組まれているのですが、これが出来てすぐの頃から住人の苦情が相次ぎまして…」。理事長が言うには、苦情の内容はほぼ同じで、気味の悪い風体の中年男性が勝手に窓から室内を覗いてくる、というものだったそうです。
当初は補修担当会社へ苦情が回ったのですが、問題の人物の服装、容貌ともに現場作業員の中には該当者がいませんでした。そうなると当然、外部から侵入しているのではないかと推測し、警察へ届出をすると共に警備員を増強して足場の出入り口のチェックも強化したそうです。しかし、それでも謎の男の出没は止まなかった、と。
「被害にあった住人から聞き取りをしたところ、その男はヨレヨレの作業服を着て、額が血塗れの気味の悪い姿をしているそうなんです。私どものところの工事作業者は、各部位担当の下請け業者に至るまで全員決まった腕章を付けさせていますので、目撃情報と照らし合わせると関係者ではないことは明らかで、しかも二十四時間体制の厳重警備をかいくぐって足場に入ってくるのは絶対に不可能なのです」。困り果てた顔でそう言った工事担当者に、「外部からの侵入者ではなくて、住民の誰かのいたずらという線はお調べになりましたか」と訊ねたところ、「もちろん」と即座に頷いてきました。住人はおろか各戸への訪問者の中にも該当者はいなかった、とのことでした。
その後、ヘルメットと命綱を着用して、建物四方の足場を実検することとなったわけですが、謎の人物出現の原因はほどなくして特定できました。南の五階部分に使われていた一枚の足場板に、かなり強い残留思念が付着していました。同時にこの板から作業員が落下して死亡した、数年前の事故の顛末も霊視できたのです。そうした部品は各現場で使い回すため、たまたまその板に憑依した自縛霊まで一緒に移動してきてしまったというわけです。現場での霊供養とともに、一部の足場材を入れ替えることで霊現象はぴたりと止みました。霊が事物に宿って移動するというのは故人の遺品にまつわる怪談、とくに人形の怪談でよくあるパターンですが、霊の依代が工事現場の仮設足場であったというのは私も初めての経験でした。
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