「材木の向きを逆にして柱を立てると、その家に災難が多発してやがて衰退の一途を辿る」、これが逆柱(さかさばしら)の言い伝えです。東北で古い家屋の購入を検討しているご夫婦に、「逆柱があるのだが住んでも良いか」と訊かれて…。
東北震災後に東京へ避難していたご夫妻から「地元へ帰りたいのだが、気になることがある」と相談されました。県内で新たな終の棲家を探していた時に、奥様の郷里で手頃な物件を見つけたので移住しようと考えたそうです。その物件というのは、市街の中心から離れた自然豊かな環境に建つ農家の屋敷を改装した建物で、築年は相当古いものの造りがとてもしっかりしており、建材にも古木が使われているところが気に入ったとおっしゃっていました。
具体的な霊現象が起きたという話ではなかったので、「出張費が掛かるともったいないですよ」と申し上げたのですが、スマホの写真では雰囲気が伝わらないのでぜひ直に見て欲しいと請われ、スケジュールの合間を縫って現地へ伺いました。
「これなんです。この柱がどうしても引っ掛かりまして」。問題の家屋に到着後、ご主人がそう言いながら居間の床柱を指差しました。言われるまま見ると、磨き上げられた木目が上下逆になっていました。いわゆる「逆柱」と呼ばれるものです。「仲介の不動産屋に訊いたら、もともとこういう形でこの家にあったそうなのですが、昔の大工がうっかりしてこんなことするわけないですよね」。
この時点ではとくに気になる点もなかったので、私は一般的な回答を差し上げることしかできませんでした。「ご存知のように逆柱は縁起が悪いとされているわけですが、魔除けの意味合いで使う場合もまれにあるのです。つまり柱を逆さに立てることで、家がまだ完全に出来上がっていない状況を作れるわけです。この家の富貴栄華にはまだ伸び代がありますよ、と。例えば日光の東照宮などにも逆柱があるんですよ」と説明したのですが、ご主人はそれでも納得されないようでした。「今の時刻ではまだお分かりにならないと思います。もしお時間があるようでしたら、夕刻まで待っていただけないでしょうか」。日が暮れて何が起きるかと訊ねても、あいまいに口を濁すばかりではっきりとしたことは訊けませんでした。
その後、3時間ほどその家で時を過ごし、ようやく日没の時刻となったのですが、とたんに私は息を飲みました。今まで何の変哲もなかった柱の表面に、苦悶する老若男女の顔がいくつも浮き出てきたのです。もちろんそれは霊視で見えたもので、ご夫妻にはただ重苦しい雰囲気しか伝わっていませんでしたが、どうして購入をためらっているのかは良く分かりました。
よくよく観察すると、かつては塗りが施されていた飾り柱でした。それで建築当初は逆柱であることが分からないようにされていたのですが、年月と共にその塗りが剥げてしまい、後から綺麗に剥ぎ取った痕跡がありました。つまり、当初は隠された呪詛の柱であったわけです。建築を請け負った大工が、施主に対して何らかの恨みを抱いていたということになりますが、具体的な話はいくら霊視もよく分かりませんでした。
「訂正いたします。ご主人が正解でした。このまま夜までいますともっと嫌なことが起きると思うので、そろそろ退散しましょう」と促すと、ご夫妻も無言で頷いておられました。
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