織姫便り

心霊住宅情報館

今回ご紹介するのは、古いアパートの一室に現れる謎の人影の話です。「部屋に鏡を置いてはいけない」、隣人がふと漏らしたその一言の意味とは?

第11物件 白装束の先住者……(東京都S区)

白装束の先住者……(東京都S区)
私は普段、個人相談以外にも法人を対象に霊感に基づく経営相談業務などをしているのですが、その顧客のひとつである某商事会社の課長からある日突然、連絡が来ました。「先生にどうしても見てもらいたい男がいるのです」その日の夕刻、先方に指定された喫茶店へ赴くと、課長とその部下である若い男性が私を待っていました。隣の課長に促されて部下の男性が言うには、「先月、新しいアパートに引っ越したのですが、じつはその部屋に…出るんです」おかげで慢性的な睡眠不足となり、日々の仕事にも支障を来すようになった彼は、課長から叱責を受けた際に正直に事の次第を話した、と。それで私の出番となったわけです。

三日後の日曜日、約束通りそのアパートへ赴きました。依頼者の部屋は二階の隅。建物のすぐ先に鬱蒼とした雑木林があるせいか、付近一帯には何となく暗い印象が漂っていました。またこの時点で、かなり強い霊気も感じました。ただしその波動は、地縛霊や不慮の死を遂げた者などが発する、いわゆる恨みの念とは違う少し性質のものでした。

依頼者の部屋に入り、室内を一通り見て回った後、あらためて当人から話を訊き直しました。「夜中に寝ていてふと目覚めると、部屋の片隅の暗がりに人の気配を感じるんです。それから、お経を唱えるような低いつぶやき声がどこからともなく聞こえてきて、それが一晩中続くのです」と。私は気に懸かっていたことを彼に質問しました。「どうしてこの部屋には鏡がないのですか?男性ですから大きな姿見がないのは分かりますが、洗面所にも鏡がありませんでしたね」それに対して彼は、「それはですね、引っ越してしばらくして、隣に住んでいる人に忠告されたんです。部屋に鏡を置かない方が良いって」「霊が映ると?」「そういうことだと思います」私は携帯していたバッグから、化粧用のコンパクトを取り出しました。その小さな鏡面に映し出す形で再度、室内を点検して回ってみると、案の定、鏡の中に白装束を着た男の顔が映し出されたのです。鏡越しに霊体へ問い掛けると、「私の修行を妨げないでいただきたい」という毅然とした答えが返ってきました。

霊との問答と霊視の結果分かったことは、アパートが建っているその土地には以前、ある宗教の道場があったということ。さらに当時、道場内には大きな鏡が置かれ、修行者たちはその鏡に自分の姿を映しながら瞑想などをしていたようです。その時の思念が強く残り続け、鏡にだけ映る霊となってしまったようです。一応、鎮霊の儀式は執り行いましたが、向こうには恨みの念などはなく祓いの対象として曖昧なため、顕著な効果を出せず結局、依頼者が引っ越すということでしか決着をつけられませんでした。生前、宗教修行者であった者の霊を祓うのは実際、かなり難しいのです。なお、このアパートは今もS区内にあります。

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